ロバのコラム

『ロバのティールーム 』 https://www.robanotearoom.com のコラムです。

青いサワガニ (3.検証編-2)

前回の続きです。

青いサワガニ (2.検証編-1)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150803


前回紹介した論文(一寸木氏の2論文)はサワガニの体色別の分布図で、その体色の要因については記載されていませんでした。
次に紹介する論文では、この青茶赤の体色の要因についての記述があるものです。


鈴木廣志, 津田英治「鹿児島県におけるサワガニの体色変異とその分布」
 (日本ベントス学会誌 Vol. 1991 (1991) No. 41 P 37-46)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/benthos1990/1991/41/1991_41_37/_pdf


この論文によると、鹿児島県内では青いサワガニ、茶色いサワガニ、赤いサワガニの3種類が生息していて、その生息分布にやはり偏りがあるらしい。そして、この3種の体色のサワガニの分布の要因をつきとめようとしている。


研究者らは、サワガニの体色の赤色の要因であるカロテノイド色素の含有量を各体色ごとに調べている。
論文中の表にわかりやすいようにマーカーで色をつけてみました↓



<サワガニの体色別によるカロテノイドの含有量>


一番左側は体色別に、
青いサワガニ・・・青のマーカーペン
茶色サワガニ・・・橙のマーカーペン
赤いサワガニ・・・ピンクのマーカーペン で色分けしてます。

そして表の右側の数値の羅列は、左から
アスタキサンチン」「アスタキサンチン・モノエルテル」「アスタキサンチン・ジエルテル」「βカロチン」の順にならんでいて、
含量が少ないものを緑、多いものをピンクのマーカーペンで印をつけました。

そうすると、あ〜ら不思議、傾向が見えてきますねぇ。


これによれば、カロテノイド色素のうち、
青型には、βカロチンが多いが、赤の発色の要因であるアスタキサンチンが少なく、
赤型には、βカロチンが少ないが、赤の発色の要因であるアスタキサンチンが多く、
茶型は両者の中間の組成となっていることがわかりますねぇ。


青いサワガニは赤い発色の原因であるアスタキサンチンが少ないわけです。
つまり赤の発色がなくて、赤色を抜いた地の色がそのまま見えているのが青いサワガニなわけです。


さらに面白いことがあります。
青いサワガニにはアスタキサンチンは赤いサワガニより少ないが、βカロチンの含有量は赤いサワガニより多い。
これは何を意味しているのでしょうか?


論文によれば、アスタキサンチンβカロチンよりつくられるそうです。
つまり、青いザリガニはアスタキサンチンの原料であるβカロチンをたくさんもっているにも係わらず、アスタキサンチンが少ない。
すなわち、


<ここ大事ですよ、テストに出しますよ!>


青いザリガニはβカロチンからアスタキサンチンを作り出す合成経路(代謝経路)をもっていない(もしくは、もっているが、弱い)ということです。
もっていない(弱い)理由はといえば・・・


もうおわかりですね、
そう合成経路(代謝経路)をつかさどる酵素かなんかをもっていない、
酵素をもたないということは酵素をつくる遺伝コード(DNA)が欠損している、
と推測できるわけですよw


もしくはβカロチンからアスタキサンチンを作り出す経路を阻害するなにかかあるのかもしれません。
この原因もおそらく遺伝コードに起因していると思います。


この論文ではここまでは結論づけていませんが、ここまでヒントがあれば、21世紀に生きる生物学をちょっとかじった人ならピーンときますね。


この論文自体は1991年の論文で、分子生物学全盛よりちょっと前なのでこの時代の技術的限界です。
これ以降の論文にはどの遺伝子が起因するかを突き止めているかもしれません。
さらにサワガニの論文探しの旅はつづきます。


つづく

青いサワガニ (3.検証編-3)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150818