ロバのコラム

『ロバのティールーム 』 https://www.robanotearoom.com のコラムです。

青いサワガニ (3.検証編-3)

前回のつづきです。

青いサワガニ (3.検証編-2)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150804


2週間ほどあいてしまいました(盆休みが入ったからねぇw)
さて、青いサワガニの検証のつづきをします。


前回のブログでは下記の文献を検証しました。


鈴木廣志, 津田英治「鹿児島県におけるサワガニの体色変異とその分布」
(日本ベントス学会誌 Vol. 1991 (1991) No. 41 P 37-46)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/benthos1990/1991/41/1991_41_37/_pdf

この文献では、
青いザリガニはβカロチンから赤の発色の要因であるアスタキサンチンを作り出す合成経路(代謝経路)をもっていない(もしくは、もっているが、弱い)と推測される、というのが結論でした。

さて、それでは、このアスタキサンチンを作れないサワガニ(青いサワガニ)がアスタキサンチンを作れるサワガニ(赤いサワガニ)とどのくらい遺伝子的に離れているのか?という問題です。つまりは、別種、もしくは亜種に近いぐらいの遺伝子的な差異があるかどうかとういうことです。


それについては2本のいい論文がありました(英語論文です)。


Minoru Ikeda, Toshiya Suzuki and Yoshihisa Fujio
「Genetic Differentiation among Populations of Japanese Freshwater Crab, Geotheiphusa dehaani White), with Reference to the Body Color Variation」
(Benthos Research Vol. 53, No. 1 : 47-52 (1998))

https://www.jstage.jst.go.jp/article/benthos1996/53/1/53_1_47/_pdf


この論文は1998年の論文で上記のアスタキサンチンの論文の7年後に東北大の研究者によって発表されたものです。
この論文は、文字通りサワガニの体色の違い(青・茶・赤)と遺伝子的相違について検証されています。


まず検体のサワガニは全国から5箇所選ばれたようです(下記地図参照)。
※マーカーの色は体色を示しています。

赤色・・・マーカーのピンク
茶色・・・マーカーのオレンジ
青色・・・マーカーの青


そしてこれらについて遺伝子解析(電気泳動)をして、その遺伝子の差異を表にまとめています。

この表については、一番上の欄は上記と同じように体色で色分けしました。
赤色・・・マーカーのピンク
茶色・・・マーカーのオレンジ
青色・・・マーカーの青
つまり、表の左の3つは体色が赤(RE Type)、真ん中の1つは体色が茶(DA Type)、右側の1つは体色が青(BL Type)を示しています。

そして遺伝子解析結果についての部分(表の4行目より下)は、数字が大きいものをピンク、中間のものをオレンジ、小さいものを緑に色分けしました。
その結果、ざっと眺めてもわかるとおり、「赤(RE Type)と茶(DA Type)」と「体色が青(BL Type)」の間に明確な差があることがわかります。つまりこの論文によれば「赤・茶」と「青」との間で遺伝子的な差異が顕著に見られると言っています。


そしてこの論文ではDISCUSSIONの項で以下のように述べています。

ピンクの四角でかこってあるとこ、重要ですよ。
特にその中の青のアンダーラインと、ピンクのアンダーライン!

すなわち、
「赤(RE Type)と茶(DA Type)の間では " the range of local race "、すなわち local race(地理的変異?)レベルの差異しかない」
そして、
「体色が青(BL Type)と他の2つ(赤・茶)の間には " the range of subspecies or congeneric species ".、すなわち congeneric species(亜種?)の差異がある」
と言っているのです。

つまり、
「赤と茶は遺伝子的に近いけど、赤・茶と青は遺伝子的に結構遠くて、サワガニの別種にしちゃってもいいレベルかもよ」
的な言い回しです。

なるほどぉ〜、やっぱり青と赤・茶では遺伝子的にかなり違うのかぁ・・・


そして、同じ頃に出された論文(こちらも英文)にも同じような結論が出されています。


Tadashi Aotsuka1,*, Tadashi Suzuki1, Tetsuhiro Moriya1, and Akemi Inaba2
「Genetic Differentiation in Japanese Freshwater Crab, Geothelphusa dehaani (White): Isozyme Variation among Natural Populations in Kanagawa Prefecture and Tokyo」
(Zoological Science 12(4):427-434. 1995 )

http://www.bioone.org/doi/pdf/10.2108/zsj.12.427

こちらは首都大学東京の研究者のもので、1995年投稿ですね。
こちらは青の個体と茶色の個体を比較していて、やはり遺伝子的に差異があるといっています。



この表についても、一番上の欄は上記と同じように体色で色分けしました。
茶色・・・マーカーのオレンジ(一番上はちょっと間違えて青塗っちゃったけどオレンジです)
青色・・・マーカーの青
つまり、表の左の8つは体色が茶(DA Type)、右側の10こは体色が青(BL Type)を示しています。

そして遺伝子解析結果についての部分(表の4行目より下)は、数字が大きいものをピンク、中間のものをオレンジ、小さいものを緑に色分けしました。
青と茶で有意差があるように見えますねぇ
ふむふむ、なるほど、なるほど・・・


ところで、これらの論文を読み終わった頃、国会図書館に複写依頼していた2001年の鹿児島大の方の博士論文が届きました。

じゃじゃ〜ん!!!



国会図書館から届いた博士論文の一部>


さて、この博士論文をパラパラと見ていると・・・
うん????? え〜〜!、マジ!?
さっきの英字論文と違うことが書いてある・・・
ええ〜〜〜〜!
まあ確かに博士論文の言うことも一理ある・・・

さあて、つづきは次回のブログで・・・


つづく

青いサワガニ (3.検証編-4)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150820