ロバのコラム

『ロバのティールーム 』 https://www.robanotearoom.com のコラムです。

「どうして人は自殺するのか」を考察する<3>

ちょっとあいてしまいましたが…
前回の続きです。


「どうして人は自殺するのか」を考察する<2>
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20101010


前回は、
「ロゴスが実体を殺す自殺」「虚像が実像を殺す自殺 」について論じました。
この現象がもっとも特徴的に現れているものは「うつ病」です。


うつ病はまさにこの「思考の負のスパイラル」がもっとも先鋭化された状態だと思います。
ここまで書くと、
「な〜んだ、結局『自殺の原因はうつ病だ』と言っているだけじゃないか」
と言う批判をうけるかもしれません。
その通りです。自殺の最大の要因は「うつ」だと思います。


ただ、重要なのは、「鬱だから自殺する」で分析をやめてしまったら、そこで終わりだということです。ですからぼくは、前回のブログ(「どうして人は自殺するのか」を考察する<2> )で、鬱状態に入るプロセスを「思考の負のスパイラル」として説明しました。


思考の負のスパイラルは、誰でもなりえます。ただ、「どこかで引き返すか」「どこかで止める」ことができれば、「存在否定」までは行かないのです。
「考えても無駄だ」「な〜に、あとはなるようになるさ」、こういう割り切り方、思考のスパイラルから脱出する術を持っている方は自殺に至りません。
しかし、脱出できない人、思考の信奉者は、脱出するための伝家の宝刀を持っているべきだと思うのです。その伝家の宝刀こそ、


「思考から導き出されるモノは、あくまでも現実世界のモデルである。ゆえに、生きる上で大いに参考にするのはよいが、決してモデルに飲み込まれてはいけない。」


という思考の性質に対する考え方です。
思考の性質を知っておけば、決して思考から導き出された結論に支配されない。そして、思考により導き出された結論を決定論的に「そうしなきゃならない」と考えなくなります。


さて、ここまで、自殺的思考の内的要因について考えてきました。しかし、自殺の要因になるものは内的要因にとどまりません。
それは内的要因を促進するアクセルのようなもので、これは社会(もしくは他者)の側にあります。


外的要因は、主体の「思考の負のスパイラル」を促進させる方向に働いています。とりわけそれは日本社会において顕著です。このあたりが日本を世界一の自殺大国にしているゆえんだと思います。


日本人の完璧性・潔癖性は世界でもトップクラスでしょう。この完璧性・潔癖性は決して悪いことではないとは思いますが、少し度が過ぎているのではないかと思います。
列車のダイヤの乱れがほとんどなく、仕事は納期通り仕上げ、少しでも予定通り進まないと怒る。この潔癖性・完璧性は思考(理想)至上主義の実践ですね。だから、日本社会は予測外・想定外の事件・事故には非常に弱い。一昔前までは事件・事故は起こらないものと考えなければならなかった(さすがに最近はそこまでではないが…)
日本社会は失敗とか、逸脱とかを許さない社会なんですよねぇ。


こういう外的環境下で生きるとどうなるか、そう「思考の負のスパイラル」に陥った人は決してそのスパイラルから出られなくなるんですよね。いや、むしろ、こういう外的環境があるからこそ、個々人が思考の負のスパイラルに陥りやすい。
とりわけ、日本人は何か事件・事故が起こると、誰が原因なのか犯人捜しを行う。この犯人捜しの行為こそが日本人が「因果的連関」「動機的連関」の虜になっているという証明です。


もうひとつ。


日本には『人権』が存在しません。
制度としての人権は存在しますが、意識としての『人権』は希薄です。その典型的な言葉が『滅私奉公』です。滅私奉公は過去のことだと思っている方は考えを改めた方がいいです。
日本は、個々の『人権』よりも全体の『秩序』を重視する。やはり日本は東洋に存在するんだなぁ
と改めて感じます。
ここに「うつ病」に向かう原因の端緒が見えます。
この考え方をつきつめて言えば、「『全体に対する奉仕』をしない主体は、存在する意味がない」という論理に行き着きます。この論理は社会の隅々まで浸透していますので、日本社会にいる限り、この論理の洗礼を受けます。社会的な雰囲気がそうなります。
そして、人によってはこれを自己の行動規範として内側に取り込み、内的規範となり、自己を律するのです。


長くなりましたので、このへんで一旦切ります。


つづく

「どうして人は自殺するのか」を考察する<4>
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20101020

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