ロバのコラム

『ロバのティールーム 』 https://www.robanotearoom.com のコラムです。

青いサワガニ (2.検証編-1)

前回の続きです

青いサワガニ(1.出逢い編)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150731


房総半島で青いサワガニと出会ってしまったわたくし・・・
また房総のおじさんがサワガニ(シミズガニ)といえば「青いカニ」と思っていた事実・・・
こりゃ、サワガニには地理的特異性があるのではないかと、ピ〜ンと来たわけです。

さっそく家に帰っていろいろとググっていくわけですが(便利な時代になりました)、まずヒットしたのが前回のブログでも書いたこのページ

白くて青いサワガニ・BL型
http://bunbuku2.web.fc2.com/s-sawagani2.html

このページによれば
「青いサワガニであるが、千葉県南部(房総半島)の他、神奈川県南部、静岡県東南部、熊本県西部などに生息している。それぞれの地域で遺伝的には異なるという。」
とあり、どうも地域によってサワガニの体色が異なるような書き方です。


また、困ったときのとりあえずのウィキペディアの「サワガニ」のページを見てみると、

サワガニ(wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AF%E3%82%AC%E3%83%8B

特徴の項に
「体色は甲が黒褐色・脚が朱色のものが多いが、青白いもの(地方によっては「シミズガニ」と呼ばれる)、紫がかったものなども見られ、よく見られる体色は地域個体群によって異なる。」ある。
つまり青白いヤツを特にシミズガニというみたいです。これでサワガニとシミズガニは同じ種を指していることはわかりました。

また、体色の項に
「体色変異は照度、餌、底質の色などの生息環境の要因左右されるとされているが十分に解明されていない。」とあり
体色の違いは地質的要因に起因するという研究もあるらしい。
さらに、
「14mmまではほぼ茶色型で、二次性徴が発現する時期の甲幅が14mm以上になると青色型もしくは赤色型の体色を呈する」とあり、
今日取った4個体のうち小さい2個体は茶色、大きい2個体は青色であるので、これも一応セオリー通り。


しかしまあ、一次ソースがウィキペディアではこころもとない(たまに嘘書いてあることもあるし・・・)
しかもこの記述からは、その地域によるサワガニの体色の違いが、地理的変異性なのか、亜種に近いのか、がどうもはっきりしません。
これは学術論文から当たっていくしかないと思い、いろいろとネット検索をしてみました。


最近は、いろんな学術雑誌の論文がネット上にPDFで転がっている時代なので、結構なレベルの情報を手に入れることができます。
昔なら図書館を探し回って(大学図書館とか国会図書館とか)、複写して手に入れていたのに・・・
ホントに便利な時代ですw


で、まず引っかかったのが以下の論文

一寸木肇「サワガニGeothelphusa dehaani(WHITE)の体色変化とその分布について(予報)」
甲殻類の研究 (7), 177-182a, 1976-02 日本甲殻類学会)
http://ci.nii.ac.jp/els/110002698452.pdf?id=ART0002976374&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1438574560&cp=

※右のPDFをクリックしてみてください。論文が全文読めます。

この論文は1976年の論文とだいぶ古いですが、体色の違うサワガニについての本格的な論文としてはたぶん本邦で最初の論文かと思います。
この論文ではサワガニの体色を大きく青、赤、茶の3つにわけて(そのサブカテゴリーでさらに分類してるが、ここでは一応3種とする)、それぞれ青:BL型、赤:RE型、茶:DA型としています。
そして神奈川県を中心として関東甲信地方のサワガニの体色の違いによる分布を図示しています。
その図は以下の通り、
わかりやすいように
甲羅が青(BL/水色の蛍光ペン)、赤(RE/ピンクの蛍光ペン)、茶(DA/橙の蛍光ペン)に色分けしてみました。



関東甲信地方のサワガニの体色違いによる分布
※一寸木肇「サワガニGeothelphusa dehaani(WHITE)の体色変化とその分布について(予報)」より


この分布図を眺めて見ると、なんとなく区分があるように見えますねぇ。
南関東は青、北関東は茶、静岡は赤みたいな感じがします。


さらに同じ方が続報で、東北地方における体色ごとのサワガニの分布が報告されています。
一寸木肇「本州北部におけるサワガニGeothelphusa dehaani(WHITE)の体色変異について」
 (甲殻類の研究 (10), 57-60, 1980-11 日本甲殻類学会)
http://ci.nii.ac.jp/els/110002698249.pdf?id=ART0002976048&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1438577471&cp=

※右のPDFをクリックしてみてください。論文が全文読めます。



東北地方のサワガニの体色違いによる分布
※一寸木肇「本州北部におけるサワガニGeothelphusa dehaani(WHITE)の体色変異について」より


この文献によれば、東北地方はどうも茶色いサワガニしかいないようですねぇ


そして、一寸木肇氏のこの2つの論文によれば、この体色の違いは環境要因ではないか、との推測をしている。
うう〜ん、これだけ見事に分布が分かれると、環境要因というのは疑わしいなぁ、やっぱり遺伝子的に違うんじゃないのかなぁ?って考えるのは2015年にいる僕らだから思うことで、この論文が書かれたのは1976年、すなわち昭和50年代前半、いまから40年前です。
今みたいにDNAシークエンスとかの技術が発達している時代よりずっとまえ、いまでは当たり前のDNA配列から進化の系統を追っていく分子系統学なんて言葉がまだ無かった時代ですからねぇ・・・


分子系統学
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E5%AD%90%E7%B3%BB%E7%B5%B1%E5%AD%A6


分布もさることながら、僕はやはりこの体色の違いの要因が知りたいわけで、これでは全然もの足りません。
ということで、この論文以降の論文を探すことにしました。


つづく

青いサワガニ (3.検証編-2)
http://d.hatena.ne.jp/damascus/20150804